大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2460号 判決

控訴人は、被控訴人が本訴不動産につき抵当権設定の仮登記に基く本登記手続を求めるのに対し、右不動産は既に他に譲渡し控訴人は最早登記名義人でなくなり登記義務者ではない、従つて控訴人は本訴における被告としての当事者適格を欠く、と主張するけれども、抵当権設定の仮登記がなされた後その登記義務者が目的不動産を第三者に譲渡し、所有権移転の登記を完了して最早登記簿上の名義人でなくなつた場合においても、なおその者は仮登記権利者の請求に応じて本登記手続に協力する義務を失わないものと解すべきであるから、控訴人の右本案前の抗弁は理由がなく、採用の限りでない。

そして、被控訴人が右抵当権取得の登記をなすにつき、控訴人の協力が得られないので、横浜地方裁判所の仮登記仮処分命令を得て、昭和二十九年十二月二十日横浜地方法務局同日受付第四四、五一六号を以て本件不動産につき抵当権取得の仮登記を経由したことは控訴人の認めるところであり、又右仮登記のなされた後、本件不動産につき、昭和三十年三月十四日付売買を原因として、控訴人から訴外有限会社八平商会に対し所有権が移転したとして、同法務局同月十五日受付第八、七六六号を以て所有権移転登記がなされ、控訴人が登記簿上の名義人でなくなつたことは当事者間に争がない。

そこで、抵当権等の制限物権につき仮登記がなされた後、仮登記義務者がその目的不動産を他に譲渡し所有権移転登記を完了して登記簿上の名義人でなくなつた場合に、なおその者が本登記をなすべき義務を失わないものであるかどうかにつき考えるのに、この点に関しては、右のような場合には、本登記をなすべき義務は新たに登記名義人となつた第三者によつて承継されるから、その者に対してのみ本登記を請求することができ、原所有者に対しては最早その登記の請求をなし得ないものとする見解(大審院大正三年(オ)第二三六号大正四年五月十四日判決参照)があるけれども(この見解に従えば、仮登記権利者に予期しない不当の負担を課し、その権利の実現を困難ならしめることとなるので、右見解は当を得たものとはいえない。)およそ、仮登記があつた後は、仮登記義務者は仮登記権利者の権利を害しない限度においてのみ処分行為を許されているのであり、従つてたとえ仮登記義務者がその目的不動産を処分し登記簿上の名義人たる地位を喪失しても、仮登記権利者が仮登記義務者に対し本登記を請求できる範囲では、仮登記義務者は依然登記名義人の地位に在るものと認めるのを相当とし(最高裁判所昭和三十年(オ)第五六一号昭和三十二年六月十八日判決及び同昭和二十八年(オ)第一七八号昭和三十二年六月七日判決参照)このことは、所有権につき仮登記がなされた場合と、抵当権等の制限物権につき仮登記がなされた場合とによつて区別すべき理由はない。してみれば、抵当権設定の仮登記がなされた後、仮登記義務者がその目的物件を他に譲渡し所有権移転の登記を経由し登記簿上の名義人でなくなつた場合においても、仮登記権利者が仮登記義務者に対し本登記を請求できる範囲では仮登記義務者は依然登記名義人の地位にあり、従つて仮登記に基く本登記をなすべき義務を負担するものというべきである。今本件についてこれをみるのに、本件不動産は控訴人から訴外有限会社八平商会に売買譲渡されたとしてその所有権移転登記がなされ、控訴人は登記簿上の名義人ではなくなつているけれども、控訴人はその前に本件不動産につき抵当権を設定し、裁判所の仮登記仮処分命令によりその設定の仮登記がなされていること前認定のとおりであるから、控訴人は右所有権移転登記のあるのにかかわらず、なお仮登記権利者である被控訴人が仮登記義務者である控訴人に対し本訴抵当権設定の本登記を請求できる範囲では依然として登記名義人の地位に在るものと認むべく、従つて被控訴人の請求に応じて右仮登記に基く本訴抵当権設定の本登記に協力すべき義務があるといわなければならない

(川喜多 小沢 位野木)

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